2001年7月11日(水)　遍路15日目

野宿と宿と金

晴

寒い、寒くて目が覚める。朝4時20分だ。起きるにはちょっと早い。 　僕が使っている銀マットはちょっと違う。砂浜で使うものだ。一辺が1.8mくらいの正方形、厚さが普通の1/3。だいたい気にしないで寝れるたちなので薄くても問題は無い。寒いときは、広げて半分に畳んで間に寝ると暖かい。寒さを凌ぐ。ごろごろしていると明るくなったのでテントを畳んで出発。水が欲しい。何処かに蛇口が無いだろうか。 　「名木たぶの木」の前に自動販売機があったので朝食を食べる。そこから1.5kmくらい歩くと神社があった。公衆トイレと水があった。新しい神社もあった。テントを張るスペースもある。野宿するには良い所だ。人が近くに居ないのも良い。朝、早いため人がいない。車も通らない。朝から顔を洗ってなかったので身支度をする。頭洗って、歯磨きして、洗濯して、バンダナで体じゅう拭いてさっぱりする。水が有るってすばらしい。洗濯物が少し乾くまで一休み。洗濯しても干せないのが難点だ。Tシャツと靴下なのでリュックの後ろに縛り付けて出発。干す方法はこれしかない。 　テントを担いで第39番札所延光寺[えんこうじ]へ。国道から曲がった所でギターを持った30代の眼鏡の歩き遍路と出会う。それからすぐに田んぼを挟んで逆打ち男性歩き遍路に声を掛けられる。田んぼで離れているので大声だ。30%くらいしか理解できない。豪快な会話を終了するが疑問ばかりが残る。あの人とは何処かで出会ったのだろうか?全然分からない。 　脂っこい物を食べようとラーメン豚太郎へ行く。これまで見て気になっていたチェーン店だ。ギョーザがちっこい。僕は大きな餃子を期待していたが一口餃子だった。しくじった。 　テントの重みで足がくたくた。歩けない。どうしよう。このままペースを落とすか、それともテントを切り離すか。選択肢はこのどちらかしかない。昨日の誓が頭に浮かぶ。しかし、前提として30日で帰りたい。金は使いたくない。しかし、帰らなくてはならない。そう決めたからだ。譲りたくないものがこれだ。野宿は譲ったが30日は譲りたくない。 　宿を取ることする。テントはもう必要ない。決めた。僕の遍路だ。電話ボックスを見つけ、電話をして宿を予約する。テントはこの電話ボックスに置いてきた。躊躇したが捨てる場所もない。誰か拾って使ってくれるかなと思って忘れてきた。 　何日か前に「松尾大師はヤバイ」というのを体験するため山に向かう。しかし、道が分からない。そのまま歩いていたら「土佐くろしお鉄道」宿毛[すくも]駅に着いてしまった。参考書にには鉄道が書いていないので何処なの分からない。鉄道は最近開通したのだろう。駅は古くない。スーパーがあって賑やかだ。駅前のベンチに行くと延光寺で出会ったギターの遍路が居た。うれしくなって挨拶に行く。 　この男性は歩いて日本を2周したそうだ。北海道から沖縄まで行った。20歳過ぎまで右半身が動かなかったがリハビリにより動くようになったそうだ。僕の年はまだベッドだった。両親が死んでしまったのでこのまま日本を旅し続けるとのこと。寂しいと思う。見た目は汚いし、鼻毛ボーンなので怪しいことこの上ないが話してみないと分からない。松尾大師への道を尋ねるが行かないほうが良いとこの人にも言われる。それに急いで回らなくても良いだろうと言われる。何かの出会いだろうとギターを弾いて2曲歌ってくれた。1曲目は題名は聞かなかった。2曲目はドリームエキスプレス in the sky。カセットテープをやろうと言われたがもらわなかった。物は良くない。思い出が何倍も大事だからだ。不安定な思い出が最高だ。 　ギター遍路と別れて松尾大師に向かう。多分こっちかな?という道が当たっていた。国道を行けばトンネルで良いのだが、行って見たいのだ。登って途中の茶屋跡で一休み。まだ先かなと思ったら、15mくらい先ですぐ近くだった。お堂が木で隠れて見えなかった。そこには男性が3人いた。夕食時だったので「食べてく?」と言われるが宿を取ってしまったためお断りする。3人ともボランティアだそうだ。松尾大師は対角線3mくらいの六角堂。真中を桜の木が貫いている。なぜ、桜を切らないのだろうか。柱、屋根が出来ている。ただしブルーシートで屋根を覆っており、瓦はまだ乗っていなかった。男性1人がフレンドリーなので話すと3ヶ月も働いているそうだ。食事は出るのでなんとかなるらしい。なるほど、働かされるとはこのことなのかと思いつつ別れを告げて、宿へ向かう。 　宿でお金もなく日本を回る。お金を使って四国を回る。本当の姿とはどちらなのか、本当の姿とは何なのか考えるが答えが出ない。クーラーの不自然な涼しさの中、そのまま布団で寝てしまう。

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